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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10262号 中間判決 1966年6月29日

東京都世田谷区玉川用賀町一丁目二六八番地五

原告 伊里福董

同都同区松原町五丁目三二番地一五号

被告 宮野省三

右訴訟代理人弁護士 本郷桂

同 井上貫一

右当事者間の昭和四〇年(ワ)第一〇、二六二号土地所有権確認並びに土地所有権移転登記請求事件について、当裁判所は次のとおり中間判決する。

主文

弁護士本郷桂は、本件につき被告の訴訟代理をしてはならない。

理由

原告は、本件につき本郷桂弁護士が被告の訴訟代理をすることは許されないと主張するので、案ずるに、訴外児玉祐典(以下、訴外人という)と原、被告との間の、渋谷簡易裁判所昭和三二年(ハ)第四七号所有権移転登記手続請求事件およびその控訴審たる東京地方裁判所昭和三三年(レ)第三三二号所有権移転登記請求控訴事件(以下、両事件を併せて別件という)の各訴訟記録に徴すれば、「訴外人は原、被告に対し別紙目録記載の土地(以下、本件土地という)につき、第一次的に、被告が訴外人に対して所有権移転登記手続をなすべきこと、第二次的に、被告が原告に対し、さらに原告が訴外人に対してそれぞれ所有権移転登記手続をなすべきことを請求した(渋谷簡易裁判所昭和三二年(ハ)第四七号事件)ところ、第一次的請求認容の判決が下され、原、被告は右判決に対して控訴を提起した(東京地方裁判所昭和三三年(レ)第三三二号事件)のであるが、本郷桂弁護士は右事件の第一、二審を通じて原、被告両名の訴訟代理をなし、該訴訟において、被告は訴外奄美大島振興会に本件土地を売り渡したもので、原告にこれを売却したことはなく、延いて訴外人は原告から本件土地の所有権を取得するに由ない旨の主張をしてきたことが認められる。ところが、本件記録によれば、「原告は被告に対し、本件土地外一筆の土地につき所有権移転登記手続をなすべきことを請求しているところ、本郷桂弁護士は本件についても被告より訴訟委任を受け、被告のために訴訟代理をなさんとしている。」ことが明らかである。

しかしながら、本郷桂弁護士が本件につき被告のため訴訟代理をなすことは、以上の事実関係に鑑みて弁護士法第二五条第一号に該当し、許されないものというべきである。思うに、同法条の趣旨は、弁護士が或る紛争につき利害相反する当事者の一方とひとたび信頼関係に立ち、或いは紛争の事実につき当事者の一方の内情を知った後に、利害相反する相手方のため当該紛争の処理にあたることは、前の当事者を当該紛争の処理につき不当に不利な立場に陥れる虞れがあるのみならず、弁護士のかかる行為により弁護士に対する一般の信頼が失墜する虞もあるので、これらの弊害を防止することにあるものと解すべきところ、本件請求は、形式的には別件請求とは訴訟物も異り同一の事件ということはできないけれども、別件が代位請求とはいえ、同一物件についての原告から被告への所有権移転登記請求を包含していることからすれば、本件と別件とは同一の紛争というに妨げなく、別件において原告の訴訟委任を受けてひとたび原告と信頼関係に立ち、或いは原告の内情を知った本郷桂弁護士が本件につきさらに被告のために訴訟代理をなすことは、前記法条の趣旨に照らして許されないというべきだからである。

よって、主文のとおり中間判決する。

(裁判長裁判官 古山宏 裁判官 中田四郎 裁判官加藤和夫は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 古山宏)

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